運営会社が入っているホテルを売るとき、必ず決めなければならない論点があります。運営を付けたまま渡すのか、契約を解消して空の状態で渡すのか。この選択は、価格・買主層・所要期間のすべてに影響します。そして多くの場合、売主の側で先に決めてしまっているために、選択肢を狭めています。
買主層が変わる
運営付きで渡す場合、買主は「その運営を引き継いで持つ」判断をします。運営の手当てが不要なので、ホテル運営の体制を持たない投資家——ファンドや事業会社、個人の資産保有法人——も検討に入れます。買える先が広がります。
空室渡しの場合、買主は自分で運営を用意しなければなりません。自社でホテルを運営している事業者、あるいは運営会社との関係を持つ投資家に絞られます。母集団は狭くなりますが、そのぶん「自分の運営を入れれば収益を改善できる」と考える買主にとっては魅力が増します。
価格の前提が変わる
運営付きの価格は、いまの運営契約が生む収益を基礎にします。賃貸借契約であれば賃料、運営委託契約(MC)であれば運営者フィーを差し引いた後の利益です。買主から見れば、その契約条件が自分の取り分を決めます。
空室渡しの価格は、買主が置く「自分ならこう回す」という想定収益が基礎になります。現状の損益ではなく、再生後の姿で値段が付きます。したがって現状が赤字でも、立地と建物と許認可に価値があれば、空室渡しのほうが高く売れることがあります。
どちらが高いかは、案件ごとに計算してみないと分かりません。これが「先に決めてはいけない」という理由です。
所要期間が変わる
空室渡しを選ぶと、契約の解消手続きが工程に入ります。解約予告期間、違約金、原状回復の範囲、什器備品の帰属。契約書の条件によっては、決済までの期間が数か月単位で伸びます。
加えて、運営を止めている間の固定費は売主が負担します。空室渡しのほうが高く売れるとしても、その差額が期間中のコストを上回るかどうかは、別途確認が必要です。
契約を読まないと、そもそも選べない
実務上、最初にすべきなのは運営契約の確認です。見るべき点は決まっています。
- 契約形態 — 賃貸借か、運営委託(MC)か、フランチャイズ(FC)か
- 残存期間と更新条項 — いつまで拘束されるのか、自動更新か
- 解約条項 — 中途解約が可能か、予告期間と違約金はいくらか
- 承継の可否 — 所有者が変わったとき、契約はそのまま移るのか。運営者の同意が要るのか
- チェンジオブコントロール条項 — 株式譲渡やSPCの持分譲渡で売る場合に発動しないか
特に承継の可否とチェンジオブコントロール条項は、取引スキームそのものを縛ります。ここを確認せずに買主と条件を詰めると、契約直前になって進められないことが判明する、という事故が起きます。
従業員の処遇
直営で運営している場合、空室渡しは雇用の問題を伴います。転籍させるのか、他施設へ配置するのか、退職金をどう扱うのか。売却の条件交渉とは別に、時間をかけて設計すべき論点です。
運営付きで渡す場合、この問題は運営会社側に残るため、売主の負担は軽くなります。価格だけでは比較できない部分です。
結論を出す順序
私たちがお勧めしているのは、次の順序です。
- 運営契約を確認し、そもそも取り得る選択肢を特定する
- 運営付き・空室渡しの両方で価格レンジを試算する
- それぞれの想定買主層と所要期間を並べる
- そのうえで方針を決める
この4段階を経ずに「運営を外してから売る」と決めてしまうと、外す必要のなかった案件で時間とコストを失うことがあります。逆に「運営付きしか無理だ」と思い込んで、より高い価格を取り逃がすこともあります。
どちらが有利かの試算は、売却目線調査の中でお出ししています。