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2026年8月9日

ホテルの価格は、坪単価では測れない

ホテルの売却相談をお受けすると、最初に「坪いくらで売れますか」と聞かれることがあります。オフィスやマンションであれば自然な問いですが、ホテルに限っては、この問いに答えようとした時点で価格を見誤ります。

同じ建物でも、運営次第で値段が変わる

同じ通りに面した、同じ客室数、同じ築年の2棟があるとします。この2棟の収益が同じになることは、まずありません。客室単価の付け方、稼働の作り方、人員配置、販売チャネルの構成、朝食や宴会をどう回すか——運営の設計が違えば、手元に残る利益は大きく変わります。

ホテルは、不動産でありながら事業です。建物は器であって、収益を生んでいるのは器の中で動いている事業のほうです。器の面積を測っても、事業の実力は測れません。

表面利回りが誤解を生む理由

賃貸オフィスやレジデンスであれば、賃料は契約で決まっており、大きくは動きません。だから「年間賃料 ÷ 価格」で計算した表面利回りが、そこそこの精度で実態を映します。

ホテルの売上は賃料ではありません。毎日変動し、季節でも曜日でも変わり、需要の増減をそのまま受けます。しかも売上に対して人件費・水道光熱費・販売手数料といった変動費が乗ります。売上が2割伸びても利益が2割伸びるわけではなく、逆もまた同じです。

この構造を無視して表面利回りだけで比べると、たまたま好調だった1期の数字が実力として扱われ、あるいは一時的に落ち込んだ期の数字で安く見積もられることになります。

では何を見るのか

私たちが価格を組み立てるときに見ているのは、おおむね次の順序です。

  • 客室単価(ADR)と稼働率(OCC) — 月次でどう動いてきたか。単価を上げて稼働を落としたのか、その逆か
  • RevPAR — 単価と稼働を掛け合わせた、客室あたりの実力値
  • 部門別の損益 — 客室・料飲・その他がそれぞれ何を稼ぎ、何を食っているか
  • GOP — 運営レベルでいくら残っているか
  • NOI — FF&E積立や運営フィーを引いた後、投資家の手元に残る水準

そのうえで、この収益が「続くのか」を検討します。競合の供給が増える予定はないか、需要の出どころが偏っていないか、大規模修繕を先送りにしていないか。続かない収益に高い値段は付きません。

坪単価が意味を持つ場合

ただし、坪単価がまったく無意味というわけではありません。ホテル用地として売る場合、あるいは建物を壊して別の用途に建て替える前提であれば、価格の基礎は土地になります。この場合は周辺の取引事例が効きます。

つまり「事業として売るのか、器として売るのか」で、使う物差しが変わります。そしてどちらで売るべきかは、収益と土地値の両方を計算してみないと決められません。

価格を出す前に、前提を出す

私たちが売却目線調査でお出しするのは、単一の数字ではなくレンジです。「この前提ならこの価格、前提がこう変われば価格はここまで動く」という形で提出します。ホテルの価格は前提で動くものなので、前提を書かずに数字だけを渡すことは、正確に見えて実は何も伝えていないからです。

売却をお決めになっていない段階でも構いません。まずは現在地を確認するところから始めていただければと思います。

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