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2026年9月1日

金利は上がり、利回りは下がる — ホテルが売れなくなった本当の理由と、運営側にできること

ホテルの売却相談を受けていて、この一年で明らかに変わったことがある。買主の反応が鈍い。稼働の数字は良い。それでも決まらない。売主からは「市況が悪いのか」と聞かれるが、悪いのは市況ではない。悪いのは、売主と買主が見ている数字が違うことである。

需要は落ちていない

まず事実から確認する。観光庁の宿泊旅行統計調査(令和7年年間確定値)によれば、大阪府の客室稼働率は78.6%で全国平均61.6%を17.0pt上回る。月別で最も低い月でも71.6%あり、閑散期が事実上存在しない。京都府は稼働率66.8%だが、外国人比率55.2%が突出している。

需要側に、売却を難しくする材料は見当たらない。

それでもホテルだけ取引が減っている

CBREの「ジャパンインベストメントマーケットビュー」2026年第2四半期によれば、この四半期の事業用不動産投資額は前年同期比17%増の1兆1,210億円で、第2四半期としては金融危機後で初めて1兆円を超えた。市場全体は絶好調である。

その中で、ホテルセクターだけが前年同期比マイナスになっている。大型ホテルやポートフォリオ取引が減り、宿泊特化型の単独取引が散見される程度、という状況だという。

市場全体が伸びているのにホテルだけが逆行している。これが、現場で感じる「決まらなさ」の正体である。

詰まっているのは買主の採算

日本不動産研究所の第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)では、大阪・京都の宿泊特化型ホテルの期待利回りはいずれも4.5%である。前回調査から動いていない。一方、10年国債利回りは2026年1月の2.095%から8月末には2.9%台まで上昇した。

利回りは動かず、金利だけが上がった。両者の差は年初の約2.4ptから約1.6ptへ、8か月で0.8pt縮んでいる。しかも東京のプライムアセットでは、ホテルの期待NOI利回りは直近も低下し、過去最低を更新している。

買主の側から見れば、借入コストが上がっているのに物件の利回りは下がり続けている。レバレッジが効かない。同じ価格では投資が成立しない。

売主の側から見れば、利回りが過去最低を更新しているという事実こそが、価格を下げない根拠になる。

どちらも間違っていない。だから埋まらない。

この差は、数字にするとこうなる

単純化して考える。NOIが100の物件を、利回り4.5%で評価すれば価格は2,222である。買主の必要利回りが5.0%に上がったとき、同じNOIでの価格は2,000になる。

差は10%。売主にとっては「1割下げろ」という話になる。

ここで見落とされがちなのは、この式にはもう一つの解があることである。価格2,222を維持したまま利回り5.0%を成立させるには、NOIが111あればよい。つまり11%のNOI改善である。

売主が10%下げるか、運営側が11%作るか。取引が成立する道は、この二つしかない。

待てば解決するのか

「もう少し待てば」という判断は、これまで多くの局面で正しかった。だが同じ調査のマーケットサイクル(市況動向)を見ると、前提が変わりつつある。

大阪(御堂筋沿い)について、現在の市況を「ピークである」とする回答が56%。半年後については「ピークを過ぎ、減退局面に転じた」とする回答が、現在の5%から11%へ倍増している。投資スタンスでも「当面、新規投資を控える」が3pt上昇して5%、「既存所有物件を売却する」が2pt上昇して28%となった。

売り手が増え、買い手が慎重になっている。待つことが有利に働く局面ではなくなりつつある。

では、11%のNOIはどこから作るのか

ここからが、不動産だけを見ていると出てこない話になる。ホテルは事業なので、同じ建物でもNOIは動かせる。

運営形態を変える

リース方式では、オーナーが受け取るのは固定賃料である。稼働と単価が伸びても、その果実は運営者に残る。稼働78.6%という市場でこの構造を維持していれば、オーナーの手取りは市場の強さを反映していない。

MC(マネジメントコントラクト)に切り替えれば、GOPの上振れはオーナーに帰属する。同時に下振れも負う。だが稼働の下限が70%を超えている市場において、そのリスクの取り方は以前とは意味が違う。

買主にとっても、この転換は重要である。リースのまま買えば、買主が引き継ぐのは賃料債権であって事業ではない。MCに切り替わっていれば、買主は自分の運営力で利回りを改善できる余地を買うことになる。同じ建物でも、買える買主の層が変わる。

ブランドを載せ替える

2026年8月、IHGホテルズ&リゾーツとGCP Hospitalityが、京都市内14軒・1,063室を一括してリブランドすることを発表した。ガーナー12軒、ホリデイ・イン エクスプレス1軒などへ、今後12か月かけて順次転換されるという。

これは、独立系ホテルが抱える構造的な弱点に対する、一つの回答である。グローバルブランドが持ち込むのは、予約システム、会員基盤、価格管理、そして海外からの送客経路である。独立系が自力で作るには時間がかかりすぎるものが、契約で手に入る。

代償は改装費とフィーである。だが改装費を負担してでもNOIが伸びるなら、資産価値は上がる。売却前にこの判断ができるかどうかで、出口の価格は変わる。

チャネルの中身を組み替える

稼働率が同じでも、その稼働をどこから取ってきたかでGOPは変わる。OTA経由の比率が高ければ手数料が利益を削る。直販と会員経由の比率を上げることは、RevPARを動かさずにNOIを上げる数少ない手段である。

そしてこれは、売買の場面で見落とされやすい。直販とリピートの顧客基盤は、建物ではなく運営者のチームとCRMに紐づいている。クロージングで運営者が替われば、リセットされうる。一方でOTA依存はそのまま引き継がれる。この二つを同じように評価した買主は、初年度に想定外に直面する。

売り方そのものを設計する

運営付きで売るか、空室渡しで売るか。この選択は、価格と買主の裾野の両方を変える。運営付きは収益の確実性を示せるが、買主は既存の運営を引き継ぐことになる。空室渡しは自分の運営者を入れたい買主に届くが、収益の裏づけを示しにくい。

どちらが高いかは物件ごとに両方計算しないと分からない。この計算をせずに売り出すのは、この市況では機会損失になる。

不動産会社として、何を提案すべきか

従来、ホテルの売却仲介は「良い物件を、多くの買主に見せる」ことが仕事だった。稼働が良く、市況が良ければ、それで決まった。

その前提が崩れている。稼働が良くても決まらない市場では、物件を右から左に流すだけの仲介は機能しない。

必要なのは、売り出す前に運営の側を組み替えられるかを検証することである。運営形態は変えられるのか。契約の残存期間と解約条件はどうなっているか。ブランドを載せる余地はあるか。チャネルの構成はどうか。そのうえで、どの買主層に、どういう形で出すのが最も高く決まるのか。

この検証をしてから市場に出すことと、してから出さないことの差が、そのまま価格差になる。

オーナーが今日から確認できること

売却を検討していなくても、以下は把握しておく価値がある。

  • 現在の運営契約の形態(リース/MC/FC/自主運営)と、残存期間、解約条件
  • チェンジ・オブ・コントロール条項の有無 — 所有者が替わったとき契約がどうなるか
  • 直販・会員経由とOTA経由の比率、およびそれぞれの手数料負担
  • GOPからFF&E繰入と運営者フィーを引いた後の、オーナー手取りのNOI
  • 旅館業法上の許可の名義と、検査済証を含む遵法性の状態

これらは売却の局面で必ず問われる。そして、売ると決めてから調べたのでは間に合わないことが多い。

おわりに

金利が上がり、利回りが下がる局面は、売主にとって不利に見える。実際、価格だけを見ればそうである。

だがホテルは事業であり、事業には改善の余地がある。不動産としての価格が動かないなら、事業としての中身を動かすしかない。そしてそれは、建物を売る前にしかできない。

売却を検討されているのであれば、価格を出す前に、まず運営の側に手が入るかを見るところから始めることをお勧めしたい。


出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」令和7年(2025年)年間確定値/日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」(2026年4月現在)/CBRE「ジャパンインベストメントマーケットビュー 2026年第2四半期」/IHGホテルズ&リゾーツ 2026年8月24日発表。10年国債利回りは2026年8月末時点。本稿は公表情報にもとづく一般的な考察であり、特定の物件・取引について述べたものではありません。当社は宅地建物取引業者であり、金融商品取引業者ではありません。

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